2012年9月2日日曜日

ネットワークトラブル解決セオリー Part1

 最近、劇場設備では、音響も照明もネットワークシステムが普及してきています。こうしてネットワークシステムが普及していくにつれ、舞台技術者は、トラブルが発生した際の問題解決に関するテクニックを知る必要があると思います。

しかし、仕組みがネットワークだからといって、何か特別な能力が必要かというと、そうではなく、トラブルが発生する時というのは、意外とシンプルなメソッドで解決できることが多い。それは従来のシステムとさほど変わりはなく、また逆にネットワークだから故、状況判断のツールが数多く存在するという点は、あまり理解されていない。

通信トラブルというのは、以下の3つの点に集約される。

1 通信経路不良による通信断絶(物理的な要因)
2 コンソール機器側の設定等(コンソールなど、信号の上流で発生する問題)
3 最終出力となる装置の問題 (スプリッター装置、NodeやDSP)

さらに、ネットワークのシステムでは、ここにネットワークIDの違いと、ブロードキャストストームの発生という可能性が加わります。(VLANなどの事例は、ここでは除外)

ここでは、本当に簡単な、しかし基本的な確認事項を改めて列記します。
まず基本事項として、物理的に接続できないのか?それとも接続されているのだけど、データが取り出せないのか?それとも正しく装置が動作しないのか?まったくデータすら到達していないのか?そうした事をクリアする必要があります。以下、簡単な接続の確認

はじめに。。基本編

状況を確認し、装置が正しく動いていないのか?それとも、まったく動かないのかを確認します。もしフリッカーなどのあおりが起こる場合はまた別の要因を考える必要がありますが、ここではまったく動かない状況を想定します。

チェックポイント1
 
スイッチングハブのポートはリンクアップしてるか?

卓や各種装置は、FOHとステージ側とそれぞれにスイッチングハブを使ってつながっていると思います。そのスイッチングハブにつながったポートを目で見て、ポートのランプが点灯しているかどうかを確認します。なんらかのデータ通信が行われていれば、ポートのランプが点滅しているはずです。それが点灯すらしてなければ、ポート不良が考えられます。これは各種装置のネットワークカード側もチェックすべきです。またデータが送られているのに、点滅がないとなると、通信経路になにか問題があるかもしれません。まずはこの物理的な接続を確実にします。

チェックポイント2

装置にあるモニター機能で確認

 個々のポートのリンクアップが目で確認できたら、通信する機器、例えば卓やDSP装置、Node装置やPCソフトウェアなどが持つ機能を使って、確認できる事がないか確かめます。例えば各種装置の液晶表示などで、相手先の装置の情報が確認できるとか、メディアサーバーなどでは、アートネット装置の名称が見えるとか、なんらかの装置の機能を使って確認します。またマネージメントスイッチを利用している場合、ウェブブラウザーでアクセスすることで、状況確認などが可能です。

(LuminexのGigaCore14Rのウェブサーバー機能は、2012年9月以降の新しいバージョンで対応)

チェックポイント3

スニッファーソフトや各種ソフトウェアを利用する

装置にモニターする方法が見当たらない場合、もっとも正確な確認方法が、モニターソフトを使う方法です。ネットワーク上にコンソールからのデータが送られて来ているかどうかを確認します。これはスニッファーソフトのようなものを使うのですが、照明さんであれば、アートネットモニターのソフトなどを使えば、一目で各種機器が見えているか又は、DMXデータが表示できます。アートネットモニターソフト

一般的にネットワーク問題の解決第一歩は、本来、Pingを打つ事から始まります。通信チェックをしたい位置から、おそらく舞台では、コンソール側になりますが、ここの拠点から、目的の装置に対してPingコマンドを打って、通信が可能かどうか?を確認します。
今では、マルチPing用フリーツールなどもあるし、またMACのユーティリティーなどには、Pingツールが用意されています。もし上記のモニターソフトがあれば、チェック3が可能ですから、このPingの意味はありません。しかし手元にモニターソフトすらない場合、全体の状況を確認することが重要です。この通信不良は、一定箇所でのみ起こっているのか、ネットワーク全体で発生しているのか?

チェックポイント4

接続をシンプルにする

 もし、全体に問題が起こっているなら、すべての拠点で同様の問題がおこっているはずです。そうした場合、幹線に問題があるか?それとも、コンソールそのものが問題を起こしているのか?しかしネットワークの場合、ブロードキャストストームの可能性がありえます。これはリングプロトコルやスパニングツリープロトコルに対応していないスイッチ同士をループ状に接続したとき、そこで起こるブロードキャストストームがネットワークシステム全体に波及します。

もし、複数の拠点が存在するなら、一度、接続をシンプルにコンソールと1個のノード間の接続のみにして、状況を確認します。もしそれで機器が正常に動作するなら、もう1つの拠点を接続して状況を確認します。接続を増やして行く段階で問題が発見されれば、そのスイッチでループが発生している可能性があります。


これらチェック1〜4は、従来のシステムでも似たような事を行ってきたと思います。通信トラブルが発生した場合、実際に行うことは同じような基本的行動であり、観察が重要です。IPの設定とか、ネットワークならではの特別なチェック事項というのはそれほど多くありません。そしてネットワークのシステムでは、ソフトウェアを利用して、状況確認する方法が数多く存在します。照明ではやがてRDMが普及する頃には、照明機器のトラブル状況ですらも、ソフトウェアで確認することができるようになります。こうしたソフトを活用し、素早く状況を確認していく事が重要です。






2012年7月18日水曜日

劇場に求められる映像向けインフラ

2000年代半ばから進む映像コンテンツの舞台演出への応用は、スライドプロジェクションのような静止画ではなく、高輝度なプロジェクターを使った動画コンテンツによる演出であり、以前よりも映像分野の専門知識をもつセクションの存在価値が高まりつつある。 そしてまたこの映像演出は、現代の舞台演出にとって、なくてはならないものになりつつある。

しかし映像を使う演出手法自体は、劇場空間において、決して新しいものではなく、動画とは言え、演出用途としては、やはりスライド演出のその延長線上にあって、それは照明効果としての映像であると言える。例えば、2011年にアメリカで行われた次のような演出も、照明効果としてプロジェクションを活用した例で、

 http://livedesignonline.com/news/2100_oscar_projections_030311/

その意味では、プロジェクションマッピングと、もてはやされている映像演出も、舞台では舞台美術への照明効果を映像で代価する手法として、パニープロジェクションやPIGIを利用した演出と大きな違いはなく、手法そのものよりも、技術的な進化が注目されるところだろう。

 さて、こうした映像演出が一般化する昨今の舞台演出において、それを受け入れる劇場においては、より自由に映像をディストリビューションできるインフラが必要になることは間違いない。そしてそのインフラとしてもっとも将来性のあるものが、光ファイバーとなる。

 照明のネットワーク化が進む、最近の劇場照明システムの考え方は、信号の劣化が少ない光ファイバーで、長距離を延長し、できるだけ照明機材の設置される各ポイントに近い位置まで、幹線を敷設することが合理的である。そして接続ポイントとなる光ポートをもつネットワークスイッチの数が多ければ、それだけカッパーケーブルによる延長は短くなるうえ、カバーできる範囲も広くなる。(カッパーケーブルによる延長では100mという限界があるため)

その意味では、照明機材を仕込むポイントに、拠点となるスイッチが配置される事が望ましい。それは例えば、シーリング、フロント、ギャラリー、ポータル、奥舞台、すのこ、上下の袖などになるだろう。しかしこれは照明だけでなく、映像にとっても最重要なポイントになる可能性が高い。なぜなら将来のプロジェクションライティングを考えると、同じ位置からプロジェクターを照射する可能性が高いからだ。

こうした事から照明のネットワークインフラにおける光ファイバーは、映像を考慮して、マルチコアで配線し、スイッチの拠点各所に、終端処理をして立ち上げておく事で、いつでも、どこからも映像送出が可能となり、将来的には映像機材を増設する際にも使いやすいものに変るだろう。

これは舞台のビジュアルデザインという側面で、映像部門を捉えた時、未だ劇場では確立されていない映像セクションが、照明セクションと強く結びつくことを意味している。つまり、照明のインフラを構築するとき、そこに映像のことを考慮するのは、照明によって意味があるということである。

ただしかし、ここで話す映像は、あくまで演出として映像を活用する事を考慮した場合の話であり、単純に映画やセミナーのコンテンツをスクリーンに照射するような映像の使い方しかしないのならば、必要のない設備だろう。あくまで、演出として映像をフルに活用する可能性をもった劇場の話である。





2012年5月5日土曜日

マルチプロトコルの未来

日本の舞台照明の世界では、未だにDMXに代わる統一プロトコルは何になるか?という議論が聞かれるが、実はそうした議論の意味は、今ではかなり薄れている。見方を変えれば、すでに照明の世界はイーサネットというプロトコルで統一されており、その上でどのプロトコルを使おうと、システムに大きな変化はないのである。そして今の状況はけっして統一されることなく、さまざまなプロトコルが混在したまま続くだろう。

先のエントリーで、PLASAが行ったカンファレンスについて触れたものの、
本気度を増すRDM&sACN]

これとて、普及促進の意図で行われたものであっても、すでに世界にばらまかれた各種のプロトコルを統一するような影響力はない。まちがいなく今ある各社のプロプライエタリープロトコルも、またすでに普及したいくつかのライセンスフリーのプロトコルも残り続けるだろう。その理由は、概3つ。

1 もはやDMXを扱うのは照明だけの世界ではなく、すでに各種のイーサネットベースのプロトコルが他の分野にまで広がっている。
彼らは照明業界のプロトコル統一への関心は薄い上、照明業界の影響が及ばない。そしてこれら機器を制御する必要がある限り、各種のコントローラは複数のプロトコルをサポートするしかなく、ネットワーク上では、異なる複数のプロトコルが利用される。

2 すでに拡散した各種のプロトコルなどを一掃するほどのインセンティブが新しいプロトコルによって生まれることはない。なぜならそのベースにあるのはDMXであり、新しいプロトコルを実装することで得られる利点は少ない。

3 現代のネットワークシステムはイーサネットで接続される機器の上でマルチプロトコルの動作を許容する。今ではほとんどの照明卓がマルチプロトコルを実装しており、ユーザーは任意のプロトコルを選択するだけでよい。そしてどのプロトコルが最適か?という視点ではなく、使う機器がどのプロトコルで動くか?という視点でプロトコルを選択する。おそらく世界中の各種機器が1つのプロトコルを選択することはなく、単にイーサネットのポートを搭載し、その時に実装可能なプロトコルをサポートすることになる。

こうした機器が混在することによる弊害は、現在のネットワーク機器のVLAN機能で、ほとんどないに等しい。同じネットワーク内にArtnetやsACNのほか、MAnetなど、各種のプロトコルを同時に利用することも可能である。やがてはこのVLANもプロトコルに応じて自動で行われるようになるだろう。そうなったとき、プロトコルが1つに統一される必要もないことに多くの人は気づくだろう。

1つのネットワークに異なるプロトコルを流してもまったく問題はなく、受け取る機器が、そのプロトコルに対応していればいいだけなのだ。つまり送信受信を行う機器が、複数のプロトコルに対応するだけでよくて、そのほうがユーザーメリットは大きいことは間違いない。それ故に各社のコンソールは、複数のプロトコルを実装するのである。



2012年4月23日月曜日

LED 向けのLeeフィルター














LeeフィルターをLEDのクールホワイトで使用すると、タングステンランプの色とは完全に異なる発色になるのを解決するLED ( 6000K )向けの新作が登場しました。


CL104 - Cool LED Deep Amber
CL105 - Cool LED Orange
CL106 - Cool LED Primary Red
CL115 - Cool LED Peacock Blue
CL116 - Cool LED Medium Blue Green
CL117 - Cool LED Steel Blue
CL126 - Cool LED Mauve
CL139 - Cool LED Primary Green
CL147 - Cool LED Apricot
CL158 - Cool LED Deep Orange
 





ETC- SourceFourの新たな時代
















Source Fourという名称は、フィラメントが4つあるHPLランプを元に開発した経緯から名付けられたと聞く。

ETCのスタンダードなプロファイルスポットも、いよいよLED化となり、劇場の照明器具に本格的なLED時代が到来したことを感じさせます。

Source FourのLEDタイプは、カラーのLustr+とタングステンカラー、そして放電管カラーの3種からなり、Lustr+は名前からもわかる通り、7色のLEDで構成される。

すべて大きさも見た目もパーツも光学系もまた照射サイズもスタンダードなソースフォーと共通で、LED化されることで、消費電力を抑えるという大きなメリットがあります。
明るさは、タングステンタイプのLEDソースフォーだと若干ですが、暗くなりますが、色や演色性などは、かなり高いレベルをキープしています。

ETCはこの色温度や演色性など、照射した際の物質が放つ光が正しい色で見えるようにするという点に非常にこだわっており、展示会においても、この正しい色が再現できるという点を強調していました。

 http://www.etcconnect.com/products.family.aspx?ID=30031






2012年4月5日木曜日

本気度を増すRDM&sACN

未だその実態が正確に理解されているとは言いがたいRDMだが、これはあくまでデバイス管理のための仕組みであって、単一の制御プロトコルではない。あくまでデバイスの情報をコントロール側へ返信させたり、機器のパラメーターやモードなどを変更したり、情報を表示したりする作業を、そのプロトコルの存在を意識せずとも使える仕組みである。

RDMはDMX512インフラ上でも使える上に、またイーサネットベースのプロトコルになった場合でもその中に内包される形で機能することができる。そして制御信号のインフラが、DMX512ではなくイーサネットのインフラになるとき、DMXインフラとは異なり、信号を止めることなく通信ができるため、非常にイーサネット上で取り扱うのに相性がいい。

というのも、ネットワークシステムの場合、送信と受信が完全に分離されたフルデュプレックスがスタンダードになったため、コンソールからDMXデータをArtnetやsACN等のイーサネットベースのプロトコルで送信しつつ、情報をバックさせることが可能であり、それを受け取る側がソフトウェアである以上、イーサネットベースのほうが受信も簡単であるためだ。

物理的な接続の仕様は、イーサネットプロトコルに任せ、またそれをアプリケーションに届ける仕組みもTCP/IPに任せることで、余計な仕組みをつくる必要がなく、sACNやArtnetには、最初からRDMデータをやりとりする為の仕様が決められている。よって、それらプロトコルを使うだけで、あとはRDMを受信してそれを表示するためのソフトウェアだけをつくればよいことになる。

こうした効果をより享受するためには、多くのメーカーの互換性や、ユーザーの認知が必要で、また普及を促進するキラーアプリケーションも重要になる。そこで、今月、RDM/sACN Plugfestyと題したConference  が開催される。

これは、全世界の各メーカーやユーザーにアナウンスされており、RDMとsACNの普及を目指して、各社の製品の接続性のテストや情報共有などをテーマにした集まりであると説明されています。わざわざアーティスティックライセンス社も賛同しているというコメントも紹介されており、このプロトコル普及に対するPLASAの熱意のようなものを感じ取ることができる。



2012年4月2日月曜日

ユビキタスなシステム

ユビキタスとは、それがどういうものかを意識せずとも使えるシステムや技術をさす言葉だが、劇場のネットワークシステムに求められる理想的な姿は、このユビキタスなインターフェースであり技術だろう。

今後、劇場における照明機器のチャンネル数は今以上に増大し、DMXインフラだけで対応するのが困難になることは、LED化が叫ばれる現状を見れば想像に難くない。しかしそれだけでなく、見方を変えれば、劇場こそネットワークシステムの恩恵を受けられる設備であるのだから、その効果を最大限に活用する意味でも、今後の劇場設備はネットワークインフラを充実させるべきだと思う。

しかし、これからのネットワークシステムは、過去にあったIT業界のおさがりのような、面倒なシステムではない。過剰なほどの空調設備に加え、設定をどうすればよいのかも判断がつかない難解な装置を文字通り「使わされる」のではなく、より簡単に使えるようになるのが、今後のネットワークシステムであり、ユビキタスなシステムの実現である。

Luminex社で販売されるネットワークスイッチ「GigaCore14R」は、そうしたユビキタスな装置、インターフェースを考慮したもので、ネットワークスイッチにありがちな面倒な設定はすべて自動で行われるように作られる。例えばリダンダントの設定なども、今までのように人が意図して設定するのではなく、自動で経路が計算され、またVLANのようなグルーピングもプロトコルベースで自動的に設定される。

こうした装置の登場は、これまで存在した難解で手間のかかるIT産業のスイッチを劇場から排除し、劇場のテクニシャンたちが、本来の仕事に専念しながらも、問題発生時や必要に応じて、自分たちの力でネットワークを運用することが可能となる。このユビキタスなシステムこそが、劇場のネットワークシステムに求められる重要な要素だと確信するとともに、また一歩、その実現に近づいたことを感じる。